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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)5576号 判決

原告 株式会社芝田建設

右代表者代表取締役 芝田昌一

右訴訟代理人弁護士 荒木勇

被告 竹内巳之吉

右訴訟代理人弁護士 田中和

同 西山鈴子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一一〇万円及びこれに対する昭和四七年一二月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四七年五月一四日、被告から、市川市新田三丁目一四二七番二四宅地一三・〇〇平方メートル(以下「本件土地」という)及びその隣地を代金九〇〇万円、代金を完済したときは、原告は本件土地を第三者に譲渡することができ、被告は原告又は右第三者に対して直ちに所有権移転登記手続をするとの約定で買受け、被告に対して同日金一〇〇万円、同月一七日金六〇〇万円、同月二九日金二〇〇万円を支払った。

2  原告は、同年六月二〇日、本件土地を東開発株式会社に売渡したが、被告が原告又は右訴外会社に対して所有権移転登記手続をすることができなかったため、原告は右訴外会社と右売買契約を合意解除し、同会社に対して違約金五〇万円を支払った。

3  原告は、その後被告代理人から同年一〇月末ごろには登記手続をすることができる旨の説明を受けたので、同年一一月一四日本件土地を尾形理に売渡したところ、本件土地には斉藤二郎名義の仮登記がなされており、そのため原告又は尾形に対して所有権移転登記をすることができなかったので、同年一二月二七日右斉藤に対して金六〇万円を支払うことにより、右仮登記の抹消登記を受け、右尾形のため所有権移転登記を経由した。

よって、原告は、被告に対し、右損害賠償金一一〇万円及びこれに対する最終の損害発生の日である昭和四七年一二月二七日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1中、原告主張のとおり金員の支払を受けたことを認め、その余の事実を否認する。右売買の目的物は、本件土地及びその隣地につき、当時被告が有していた仮登記にかかる停止条件付所有権である。

2  同2中、被告が原告又は訴外会社に対して所有権移転登記をすることができなかったとの事実を否認し、その余の事実は不知。

3  同3中、被告代理人が原告主張のような説明をしたことを否認し、本件土地につき尾形のため所有権移転登記がなされていることを認め、その余の事実は不知。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》を総合すると、請求原因1の事実を認めることができ、他にこれに反する証拠はない。

被告は、本件売買は仮登記上の権利の売買にすぎないから、所有権移転の本登記をすべき義務はないと主張するが、本件売買の目的は、条件付ではあるものの本件土地所有権であり、仮登記は対抗力を有するものではないから、所有権移転登記義務をとくに排除する旨の特約のないかぎり、条件が成就すれば売主に所有権移転登記義務が発生する。しかも被告から原告に交付する確定判決は、被告の前主に対して仮登記に基づく本登記を命じたものと推認されるのであって、被告から原告に対してなされる所有権移転登記にかかわるものではないし、原告の条件付所有権移転請求権の仮登記自体にかかわるものでもないから、右判決の交付によって被告の登記義務が履行されたものということはできない。

二  《証拠省略》によれば、原告が昭和四七年八月ころ本件土地及びその隣地を東開発株式会社に売渡したこと、同会社と原告との間で右売買契約を合意解除し、原告が同会社に対して同月五日違約金五〇万円を支払ったことが認められるが、《証拠省略》によれば、本件土地の隣地である市川市新田三丁目一四二七番一の宅地については、同月二一日に原告の前代表取締役であり、現取締役である芝田康雄のため所有権移転登記がなされたこと、当時本件土地について登記手続がなされなかった理由が明らかではなく、少くとも斉藤二郎名義の仮登記の存在が問題とはなっていなかったことが認められ、この事実と原告が東開発に金五〇万円を支払ったのが同月五日であったとの前示の事実とを併せ考えると、右違約金の支払は本件土地につき東開発株式会社に対して所有権移転登記がなされなかったことによるものと認めるに足りず、他に原告の右主張を肯認するに足りる証拠はない。

三  《証拠省略》によれば、斉藤二郎は被告の前主宮崎ひさらに対して貸金債権を有していたので、これを担保するため、昭和四六年二月一二日、本件土地について条件付所有権移転の仮登記を経由したこと、原告は昭和四七年一一月一四日尾形理に対して本件土地を売渡したが、被告から被告の右宮崎らに対する仮登記に基づく本登記手続を命ずる確定判決の交付を受けてはいたものの、右斉藤の仮登記があるため、直ちに所有権移転の本登記を経由することができず、同人に金六〇万円を支払ってその承諾書を取得し、右尾形に対する所有権移転登記を経由したことが認められる。

右事実によれば、斉藤の右仮登記の順位は被告の右仮登記の順位に劣後し、究極的には被告の本登記を承諾すべき義務があるものではあるが、同人が任意に承諾する意思はなく、承諾に代わる確定判決を取得せざるをえない状況にあったのであるから、少なくとも承諾請求訴訟を提起し、その費用を出捐することを免れないから、斉藤の仮登記の存在は、本件土地の「瑕疵」というべきであるが、その登記簿を一見すれば、容易にこれを知ることができるのであるから、「かくれた」瑕疵ということはできない。してみれば、原告のこれに基因する損害賠償請求は、その余について判断するまでもなく理由がない。

四  以上の次第により、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 丹野達)

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